みどうすじ、徒然なるままに

IT企業でキャリアアドバイザーをしています。普段の小さな気付きから哲学的な考えまで、書きたいことを自由に書きます

【ネタバレ有り/読書メモ】「就活」とは【六人の嘘つきな大学生】

こんにちは、御堂筋です。 IT企業でキャリアアドバイザーをしています。

GW中に『六人の嘘つきな大学生』を読んだのでアウトプットします。 結論 中々面白かった です。 最近小説は読んでいなかったし、読み始めても途中で飽きてしまうことも多かったのですが今回はスラスラ読めて2-3日で読破しました。

ネタバレがありますので、これから読む方は注意してください。

どんな話?

あらすじはこんな感じです。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」の最終選考。最終に残った六人が内定に相応しい者を議論する中、六通の封筒が発見される。そこには六人それぞれの「罪」が告発されていた。犯人は誰か、究極の心理戦スタート。

よくある「就活」と「人間関係」モノではあります。 そこに「ミステリー」も掛け算されて、一つひとつ伏線が回収されていくような展開です。

感想・気付き

雑多に箇条書きで書いています。

  • 「就活」というシステムについての警鐘
  • 人間は完全に悪人でもないし、完全に善人でもない
  • 少しずつ回収される伏線と、逆転する内容
  • やっぱり一つの側面からは何も分からないし、自分のことは本屋に行っても分からない
  • 人間のドロドロしたところと、嫌いになれないところという「人間らしさ」が分かる小説だった
  • 皆にとっての「就活」を話すだけでも盛り上がりそう
  • 自分は就活らしい就活はしたこと無いけど、「就活」も「教員採用試験」も変わらないのかもしれない

印象的なセリフ

透明な銃で透明な敵を撃ち続けていたら、思いのほか悪くないスコアが手元に表示されていたというような話

それなりに点数を取って、そこそこの大学に通っている登場人物のセリフです。

自分も比較的このタイプの人間だったので共感する部分がありました。

「高い点数を取ってやろう!」という気持ちも「点数取らないとやばい…」という気持ちも無かったのですが普通にやれば恥ずかしくないスコアは出せていたなぁと正直思っています。

思い返せばそういうのも就活のせいだったのかもしれないな……何というか、自分でもよくわからない上昇志向が芽生えるっていうか、変に意識が高い状態に調整されるっていうか。いい言い方をすれば「成長しすぎる」んだな。就活のせいで。どんな大人になりたいですか、どんなビジネスパーソンになりたいですか。何もわからないのにやたらと急かされた感じがあって、こっちも根は体育会系だからさ、やってやるぜって燃えちゃうんだな。

自分は学生時代、教員になることしか考えていなかったので就活のことは友人から知るのみ、という感じだったのですがこんな感じなのかぁという印象です。

確かに毎日面接や合同説明会などを参加していたらそのつもりがなくても意識が「上がってしまう」のかもなと思いました。

就活期は思うに、最上の混乱期だったよ。自分のことを知らなきゃなんて言って本屋に駆け込んで、自己分析の本を買うんだからね。そこで、へえ、僕ってこんな人間だったんだなんて納得したりして。

確かに就活になると途端に始まりますよね、「自己分析」。 自己について振り返る経験は自分も大学4年までしていなかったと思います。 急に言われても…と思うことは多々ありました。

書店に行っても自分のことは分からない、そう思います。

頭のてっぺんからつま先まで冗談みたいに真っ黒な衣装を身に纏っている彼らは、もちろん仮装集団ではない。就活生だ。

良く大学の友人が「没個性」と言っていましたが、まさにそういった表現なのかなと感じました。この辺りの「常識」もいずれ変わっていくのでしょうかね…就活生も好きで着ている訳ではないので…

とにかく、ここで僕はとんでもなく大きな疑問にぶつかったわけだよ。『企業は本当に、優秀な学生を選抜できているのか?』って。さらにはもっと根源的なところまで話を敷衍させてもいい。言い換えるなら、『就活って、本当に機能してるのか?』」

「採用」という問題そのものにまで提起しているように思われるセリフです。

このセリフを発した人物は、一流企業で自分が最終まで行き、友人が二次選考で落ちたこと、それから落ちた友人が起業して社長としてバリバリ腕を奮っている姿を見て上記の考えに至ったとのこと。

「優秀」とは、という部分で価値観が分かれて来るのでこれは致し方ないのではと思ったりします。

すごい循環だなと思ったよ。学生はいい会社に入るために噓八百を並べる。一方の人事だって会社の悪い面は説明せずに噓に噓を固めて学生をほいほい引き寄せる。面接をやるにはやるけど人を見極めることなんてできないから、おかしな学生が平然と内定を獲得していく。会社に潜入することに成功した学生は入社してから企業が噓をついていたことを知って愕然とし、一方で人事も思ったような学生じゃなかったことに愕然とする。今日も明日もこれからも、永遠にこの輪廻は続いていく。噓をついて、噓をつかれて、大きなとりこぼしを生み出し続けていく。そういう社会システム、すべてに、だね。やっぱりものすごく憤ってたんだ。だから『あんなこと』をやってしまったわけだよ。

どうしてもHR領域は似たような意見を頂くことがありますね。 自分自身の仕事観を伝えてもビジネスモデルの問題がある故に好意的に捉えられないと言ったことが。

「就活」に対してアンチ的な発言が多くある小説だったので、逆の意見(就活が素敵なシステムである等)も聞いてみたくなりました。

誰もが胸に『封筒』を隠している。それを悟られないよう、うまく振る舞っているだけ。そしてそれは自分も例外ではないのだ。

自分の中の「封筒」に思い当たる節があってもなくても結局恐れているという描写が印象的でした。

結局「関心の輪」になる領域にベクトルを向けても仕方無いのではと思いつつ、気になってしまうというのが「学生」というものなのではと感じました。 自分自身も学生時代は学問の性質上どうしても抽象的な概念などに多く触れていたため、色々調べていたなぁと思い出しました。

用意されたボールペンは、握ったそばから汗でつるつると滑り出す。やはり一度、お手洗いに行かせてもらおうと思ったところで、扉の向こう側から兵隊の行進のような足音が響いてきた。気づいたときには最初の四人が人事に案内されて入室してくる。間違い探しクイズかと紛うような、短髪、色白、瘦身、黒スーツの男子学生が四人ずらりと並ぶ。彼らの表情が一様にゲシュタポを前にしたような緊張感に包まれているので、こちらにも緊張が伝播する。結論から言うと、ここから二時間、私はたっぷりと地獄を味わうことになる。「私は大学で社会心理学を専攻し、学んで、参りました。大学において培ってきた人の心の動きを捕まえるという、能力は、きっと御社においても、役に立つものと確信しております」絵本を読み上げているのかと思った。不自然なイントネーションで覚えてきた言葉をただ朗読する彼の評価は、申しわけないが低く設定しても問題ないだろう。

「自分の経験を、自分の言葉でありのままに表現する」ことの大切さを身にしみて感じました。

中途採用の領域でも意識しないといけないことですね。

この人たちは、何とも思わないのだろうか。私たちは学生の運命を握りながら、しかし同時に極めて残酷な事実を突きつけられているのだ。この人たちに、プライドはなかったのだろうか。誇りはなかったのだろうか。自分はあのIT最難関との呼び声も高いスピラリンクスの入社試験をくぐり抜けてきた精鋭だという、自惚れはなかったのだろうか。私はあった。そしてそれがいま、椰子の実の皮を乱暴に素手でむしられていくように、ゆっくりと、暴力的に削り取られていく。自分がくぐり抜けた試験は所詮こんなものだったのだ。

「ネームバリュー」というものでしょうか。これは自分も気をつけないといけないなと思いました。 どうしても候補者の方の経歴を見る際に知っている企業だと「お」という気持ちになってしまいます。

ただ、確かに企業名だけで何も判断することは出来ませんよね。 これは肝に銘じます。

逆に『面接に受かる必勝法を教えてください』と学生にアドバイスを求められたときも、私は同じことを言いがちです。精一杯の助言はしますし、やれるだけのことはやってみたらいいと言いますが、やっぱり最後は圧倒的に『運』です。

真理だなと思いました。「必勝法」なんてものがあったら知りたいです。 「銀の弾丸は無い」というものですね。

私は何となく、「運」とは表現せずに「ご縁」と表現しています。

『将来的に何をやらせるのかは決まっていないけど、向こう数十年にわたって活躍してくれそうな、なんとなく、いい人っぽい雰囲気の人を選ぶ』日本国民全員で作り上げた、全員が被害者で、全員が加害者になる馬鹿げた儀式です。

かなり尖っているセリフだなと思いました…! 著者の方について詳しく調べていないのですが、何か就活に嫌な思い出でもあるのでしょうか。

「人柄で採用される」というのはまさにこれなのかもしれないとは思いましたが。

終わりに:では海外の就活のシステムはどうなっているのだろうか?

全体的に「日本の就活システムへのアンチテーゼ」といったコンセプトを感じました。 確かに今のままのシステムが完璧だとは思わない一方で、 「では日本の文化に合った、海外のシステムはあるのだろうか?」 という疑問が浮かんできました。

時間があれば自分なりに調べてみようと思いました。

以上です、非常に面白い本でしたのでもし良かったらゴールデンウィーク中に読んでみると良いかもしれません。

最後までお読み頂きありがとうございました。